[INTRODUCTION]
さまざまな映画賞を受賞した前作『沈黙を破る』から13年。この間、イスラエルは右傾化が加速し、パレスチナ人自治区にユダヤ人入植地が増殖、ガザ地区ではイラスラエル軍の激しい武力攻撃が繰り返されてきた。“占領軍”の兵士となったイスラエルの若者は、パレスチナ人住民に対して絶大な権力を行使する中、道徳心や倫理観を麻痺させ、それがやがてイスラエル社会のモラルも崩壊するという危機感を抱くようになる。そんな元兵士たちの一部が、“占領”を告発するNGO「Breaking the Silence(沈黙を破る)」を立ち上げ、2009年公開の前作では、彼らの姿と証言、そして占領地の凄まじい実態を描いた。個人と社会の“倫理”のために占領を告発しつつける「沈黙を破る」の活動は、イスラエル社会でさらに重要な存在意味と役割を持つようになったが、一方で政府や右派勢力からの攻撃も急激に強まっていく。それでも彼らは屈せず、活動を続ける。本作は、1985年以来、34年間現地に通い“パレスチナ・イスラエル”を取材、これまでガザ地区、ヨルダン川西岸、東エルサレムなどパレスチナ人地区とイスラエルについて多数の著書・ドキュメンタリー映像を発表・報道してきた土井敏邦監督の集大成となる作品である。これは私たちにとって「遠い問題」ではない。“自国の加害”と真摯に向き合おうとする元将兵たちの生き方は、現在行われてロシアのウクライナ侵攻を考える上でも、私たち日本人にも大きな問いかけをしている。