メーサーロシュ・マールタ監督特集

過去の上映作品
[上映日程]9/2~15(休映:9/4、11)

イザベル・ユペール、アンナ・カリーナ、デルフィーヌ・セイリグ……名だたる俳優を魅了し、アニエス・ヴァルダがオ ールタイム・ベストのひとつとしてその作品を挙げた、ハンガリーの映画監督メーサーロシュ・マールタ。
女性初の金熊賞受賞作をはじめとする初期傑作群が、レストア版で一挙日本初公開!

1975年、『アダプション/ある母と娘の記録』で女性監督として史上初めてベルリン国際映画祭の最高賞(金熊賞)を受賞し、その後もカンヌ国際映画祭やシカゴ国際映画祭などで数々の賞に輝いたメーサーロシュ・マールタ。アニエス・ヴァルダやヴェラ・ヒティロヴァらと並ぶ極めて重要な女性作家でありながら、これまで彼女の作品が日本で劇場公開されることはなかった。
2017年より初期作品の修復が進み、2019年のベルリン国際映画祭や2021年のカンヌ国際映画祭で上映され、いま、世界的に再評価が進んでいる。
幼い頃に戦争を経験し、ハンガリーとソヴィエトとを行き来せざるを得なかったメーサーロシュ。「民主化」が標榜する偽りの自由や、女性の主体性を脅かす社会の相貌を描き続ける彼女の作品はいまもなお色あせることはなく、その誠実なまなざしは現代社会の欺瞞さえも暴きうる。

[上映作品]
『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』Szép lányok, ne sírjatok! (1970)
『アダプション/ある母と娘の記録』Örökbefogadás (1975)
『ナイン・マンス』Kilenc hónap (1976)
『マリとユリ』Ők ketten (1977)
『ふたりの女、ひとつの宿命』Örökség (1980)

ハンガリーの至宝『メーサーロシュ・マールタ監督特集』女性たちのささやかな革命
後援:駐日ハンガリー大使館/リスト・ハンガリー文化センター
配給:東映ビデオ
©National Film Institute Hungary – Film Archive

[公式サイト]
meszarosmarta-feature.com

[上映スケジュール]

メーサーロシュ・マールタ監督特集『アダプション/ある母と娘の記録』鶴岡慧子 監督アフタートーク付上映 開催のお知らせ。

▶︎Programs
メーサーロシュ・マールタは自身の特徴的な主題(孤児、親子の関係、女性が直面する問題)を驚くほど変化に富む形で繰り返してきました。本特集ではその変奏過程を最大限体験できるラインナップを揃えています。『アダプション/ある母と娘の記録』で描かれる子を設けることへの希望は、『ナイン・マンス』では大人たちの残酷な関係を通して、出産に至るまでの不安として変奏されます。『マリとユリ』では(『アダプション』において半ば不在として扱われた)家族の姿がつぶさに捉えられ、『アダプション』を特徴づける名状しがたい女性の連帯が、本作ではより切実な関わりあいとして提示されます。女性同士の結びつきは『ふたりの女、ひとつの宿命』において、同化という極端なまでの強度を見せます。これら4作品は数珠つなぎのように鑑賞する価値のある作品群です。メーサーロシュ作品の素晴らしさは、こうした主題の反復という作家性だけではなく、親しみやすい音楽の扱いにも認められます。娯楽映画さながらに主旋律を繰り返す作法は、その作品を誰にも開かれたものにしており、そうした音楽性がもっとも開花した作品が『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』です。同作においても主題は一貫しており、彼女の作家性をたしかに感じることができます。

『ドント・クライ プリティ・ガールズ!』
英題:Don’t Cry, Pretty Girls!/原題:Szép lányok, ne sírjatok!
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:ズィムレ・ペーテル
脚本監修:ビロー・イヴェット
撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演アーティスト:Metro、Illés、Kex、Sziriusz、Tolcsvay Trió ほか
出演:ヤロスラヴァ・シャレロヴァー、ザラ・マールク、バラージョヴィチ・ラヨシュ
1970年/ハンガリー/ヨーロピアン・ビスタ/モノクロ/89分/2Kレストア
字幕:高橋文子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

ビート・ミュージックのファンである若者たちは、うだつの上がらない日々を工場での労働に費やしている。ユリは不良青年のうちのひとりと婚約しているのだが、とあるミュージシャンと恋に落ちた。ギグを開くという彼とともに、ユリは小旅行へ出かける。しかし嫉妬深い婚約者と彼の不良仲間たちは執拗にふたりを追いかけ……。溢れんばかりのビート・ミュージックとともに、当時の息詰まるような社会の閉塞性がたしかに刻印された、珠玉の音楽逃避行劇。

『アダプション/ある母と娘の記録』
英題:Adoption/原題:Örökbefogadás
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:メーサーロシュ・マールタ、ヘルナーディ・ジュラ、グルンワルスキ・フェレンツ
脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ
撮影監督:コルタイ・ラヨシュ
出演:べレク・カティ、ヴィーグ・ジェンジェヴェール、フリード・ペーテル、サボー・ラースロー
1975年/ハンガリー/ビスタ/モノクロ/88分/4Kレストア/PG12
字幕:高橋文子/字幕監修:ナジ・アニタ

43歳のカタは工場勤務の未亡人。彼女は既婚者と不倫関係にある。カタは子どもが欲しいのだが、愛人は一向に聞き入れない。とある日カタは、寄宿学校で生活するアンナと出会い、彼女の面倒を見ることにした。次第にふたりは奇妙な友情を育んでいく。メーサーロシュの名を一躍世界に知らしめた記念すべき作品。家父長制すら歯牙にもかけぬ主人公たちの親密さを、決して見逃してはならない。

◎1975年 第25回ベルリン国際映画祭 金熊賞

『ナイン・マンス』
英題:Nine Months/原題:Kilenc hónap
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:ヘルナーディ・ジュラ、コーローディ・イルディコー
脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ
撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演:モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ
1976年/ハンガリー/スタンダード/カラー/94分/4Kレストア/R15+
字幕:高橋文子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

ユリは工場勤務の傍ら、農学を学んでいる。工場の上司は彼女と恋に落ちる。ユリは彼に誠実な関係を望むいっぽう、前パートナーとの間に子どもがいる事実を隠している。やがて彼女の秘密は明らかになるのだが、上司は子どもの存在を受け入れるだけの心の準備ができておらず……。ドキュメンタリー作家としてキャリアをスタートさせたメーサーロシュが、作為性や修飾を極限にまで削ぎ落した「真実」の記録。

◎1977年 第30回カンヌ国際映画祭 国際映画批評家連盟賞

『マリとユリ』
英題:The Two of Them/原題:Ők ketten
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:コーローディ・イルディコー、バラージュ・ヨージェフ
脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ
撮影監督:ケンデ・ヤーノシュ
出演:マリナ・ヴラディ、モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ
1977年/ハンガリー/スタンダード/カラー/98分/4Kレストア
字幕:森彩子/字幕監修:ナジ・アニタ

マリの夫は偏狭な男で、ユリの夫はアルコールに依存している。彼女たちはつらい夫婦生活を乗り越え、慰めを求めあう。互いの葛藤を知ったふたりは、それぞれの人生を歩むべく、ある決断をする。結婚生活に絡めとられる二人の女性の連帯を、厳しくも誠実なまなざしで捉えた精緻な秀作。

『ふたりの女、ひとつの宿命』
英題:The Heiresses/原題:Örökség
監督:メーサーロシュ・マールタ
脚本:コーローディ・イルディコー、メーサーロシュ・マールタ/脚本監修:ヴァーシャールヘイ・ミクローシュ
撮影監督:ラガーイ・エレメール
出演:イザベル・ユペール、モノリ・リリ、ヤン・ノヴィツキ、ペルツェル・ズィタ、サボー・シャーンドル
1980年/ハンガリー・フランス/16:9/カラー/105分/4Kレストア
字幕:森彩子/字幕監修:コロンツァイ・バーバラ

欧州古典絵画の数々を活人画として再現した芸術映画製作に取り組む野心的ポーランド人監督。国際的製作班による「(完成しない)映画作りを描いた映画」としての側面を備える本作は、夏の陽光に満たされたかつてのゴダール映画『軽蔑』を冬の光の中で再創造する。ここでも物語は芸術(創造行為)と生活(性や金銭を巡る諸問題)の間を往還するだろう。

メーサーロシュ・マールタ Mészáros Márta

1931年、ハンガリーの首都ブダペシュトに生を受ける。ファシズムが台頭する戦間期、両親とともにキルギスへ逃れるも、父親はスターリンの粛清の犠牲となり、その後、母は出産で命を落とした。ソヴィエトの児童養護施設に引き取られ、戦後ようやくハンガリーへ帰郷する。1968年から長編映画を撮り始める。残酷な社会のなかで日々決断を迫られる女性たちの姿を描きながら、ファシズムの凄惨な記憶や、東欧革命の前兆であるハンガリー事件の軌跡など、そのまなざしは暴力と化す社会の相貌をも見逃さない。
1975年の『アダプション/ある母と娘の記録』は、第25回ベルリン国際映画祭において女性監督としてもハンガリーの監督としても史上初となる金熊賞受賞の快挙を成し遂げた。その後もカンヌ国際映画祭をはじめ数々の国際映画祭で受賞を果たし、同時代のアニエス・ヴァルダらと並び、もっとも重要な女性作家としての地位を確立した。最新作は 2017年の「Aurora Borealis: Northern Light」。

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