特集上映「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」

過去の上映作品
[上映日程]9/18~10/8(休映:9/21、27、10/4)
[鑑賞料金]通常通り/本企画の鑑賞には当館オリジナルのお得な回数券¥3,900がおすすめです

現代アメリカ映画の最重要作家ケリー・ライカートが紡ぐ、
4つのロードサイダーズ・ストーリー。
アメリカン・ドリームが失われた世界にさすらう者たちの、
語るに足る、ささやかな抵抗──。

1994年に最初の長編『リバー・オブ・グラス』を発表以来、各国映画祭で激賞されながらも、大手スタジオとは一定の距離を保ち、真にインディンペンデントなスタイルと制作体制を静かに貫き続ける現代最高の女性監督ケリー・ライカート。
最新作『First Cow』はA24が製作・配給し、各国メディアを席巻。『オールド・ジョイ』から始まる“オレゴン・シリーズ”の最新作にあたるその公開を前に、エバーグリーンの輝きを放つライカート監督のキャリア初期傑作4本を一挙に公開いたします。
自分と同じくらい孤独な他者とつながろうともがきながら、それぞれのユートピアを求めて、荒野を彷徨う登場人物たち。その過程で積み重ねられる、言葉にならなかった感情や何かが変わるはずだった行動、そのぎこちない関係性の数々は、繊細で親密な手触りをもって、私たちの感性を深く揺さぶる──。

【配給】グッチーズ・フリースクール、シマフィルム
【提供】シマフィルム、東映ビデオ

◎公式サイト:kelly2021.jp


[上映作品の紹介]

『リバー・オブ・グラス 2Kレストア版』RIVER OF GRASS
[1994年/アメリカ/スタンダード/カラー/76分]  
撮影:ジム・ドゥノー
編集:ラリー・フェセンデン
出演:リサ・ドナルドソン(リサ・ボウマン名義)、ラリー・フェセンデン、ディック・ラッセル
© 1995 COZY PRODUCTIONS

[作品紹介]
楽園リゾート都市マイアミのほど近く、なにもない郊外の湿地で鬱々と暮らす30歳の主婦コージーは、いつか、新しい人生を始めることを夢見ている……。20代最後の年、故郷に戻ったライカートが、逃避行に憧れ、アバンチュールに憧れ、アウトローに憧れた、かつての思春期の自身に捧げた「ロードの無いロード・ムービー、愛の無いラブ・ストーリー、犯罪の無い犯罪映画」。撮影許可料が払えず、警察から幾多の圧力を受けながら、ゲリラ撮影で完成させた珠玉のデビュー作。


『オールド・ジョイ』OLD JOY
[2006年/アメリカ/ヴィスタ/カラー/73分]
脚本:ジョン・レイモンド
撮影:ピーター・シレン 
音楽:ヨ・ラ・テンゴ  
製作総指揮:トッド・ヘインズ
出演:ダニエル・ロンドン、ウィル・オールダム、ターニャ・スミス
© 2005,Lucy is My Darling,LLC.

ロッテルダム国際映画祭タイガー・アワード(最高賞)受賞
ロサンゼルス映画批評家協会インディペンデント・フィルム賞 受賞

[作品紹介]
もうすぐ父親になるマークは、ヒッピー的な生活を続ける旧友カートから久しぶりに電話を受ける。キャンプの誘い。 “戦時大統領”G・W・ブッシュは再選し、カーラジオからはリベラルの自己満足と無力を憂う声が聞こえる……。ゴーストタウンのような町を出て、二人は、ポートランドの外れ、どこかに温泉があるという山へ向かう。『リバー・オブ・グラス』から12年――貯めた資金をもとに完成の目処なくスタートした企画だったが、ライカートの評価を一躍高めた2作目。


『ウェンディ&ルーシー』WENDY and LUCY
[2008年/アメリカ/ヴィスタ/カラー/80分]
脚本:ジョン・レイモンド
撮影:サム・レヴィ
製作総指揮:トッド・ヘインズ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ウィル・パットン、ジョン・ロビンソン、ウィル・オールダム
© 2008 Field Guide Films LLC

カンヌ国際映画祭パルム・ドッグ賞受賞

[作品紹介]
『オールド・ジョイ』に惚れ込み、ライカートに自らアプローチしたミシェル・ウィリアムズを主演に迎えた、一人と一匹の異色のバディが織りなす彷徨譚。ほぼ無一文のウェンディは、愛犬ルーシーと共に新しい生活を始めるため、仕事を求めてアラスカへと向かっている。しかし、途中オレゴンのスモールタウンで車が故障。さらに警察に連行されてしまい、ルーシーは行方不明に……。ライカート自身「これは私の物語でもある」と語る、世界の悲惨と個人の尊厳を描き切った代表作。


『ミークス・カットオフ』MEEK’S CUTOFF
[2010年/アメリカ/スタンダード/カラー/103分]
脚本:ジョン・レイモンド
撮影:クリストファー・ブローヴェルト
製作総指揮:トッド・ヘインズ
出演:ミシェル・ウィリアムズ、ゾーイ・カザン、ポール・ダノ、ブルース・グリーンウッド
© 2010 by Thunderegg,LLC.

ヴェネツィア国際映画祭SIGNIS賞 受賞

[作品紹介]
アメリカのアイデンティティの根源たる西部開拓神話が、ライカートのオルタナティブな視点とスタイルによって見事に解体された歴史的一作。1845年のオレゴン。広大な砂漠を西部へと向かう白人の三家族は、近道を知っているという案内人スティーヴン・ミークを雇うが、長い1日が何度繰り返されど、目的地に近づく様子はない。道に迷った彼らを襲うのは飢え互いへの不信感だった……。実在の人物と史実をベースに、当時の女性たちが密かに綴った日記を丹念に読み込み、現代の寓話として生々しく再構築した意欲作。


ケリー・ライカート
Kelly Reichardt

1964年、アメリカ・フロリダ州出身。犯罪捜査官の父、麻薬捜査官の母の元に生まれる。幼いころから写真に興味を持ち始め、父親の犯罪現場用カメラを使い始める。と同時に、放置された証拠品袋から取り出し、初めてマリファナを吸う。
School of the Museum of Fine Arts at Tufts University出身。在学時に何も知らずにサタジット・レイとライナー・ヴェルナー・ファスビンダーについての授業をとる。ファスビンダーの映画を初めて見た際に「とてもパーソナルな映画でありながら、同時に政治的な一面を持っていて、こんな映画が作ることができるのかと、衝撃を受けました」と語る。その後、スーパー8mmフィルムでMVを制作。1988年にニューヨークに引っ越し、ノーマン・ルネ監督『ロングタイム・コンパニオン』(89)などに美術として参加。ハル・ハートリー監督『アンビリーバブル・トゥルース』(89)、トッド・ヘインズ監督『ポイズン』(91)では美術を担当するとともに一部、出演もしている。

長編デビュー作『リバー・オブ・グラス』(94)は、自身の故郷である、フロリダ州マイアミ・デイド郡で撮影。ボストン・グローブや、フィルム・コメントなどが年間ベストに選出した。ハーマン・ローチャーの小説“ODE TO BILLY JOE”を再解釈した、次作“Ode”(99)は50分の中編。自身でカメラマンも兼任し、スーパー8mmで撮影。後の『オールド・ジョイ』と同じく、ヨ・ラ・テンゴとウィル・オールダムのオリジナルサウンドトラックで構成されている。
2002年制作の“THEN A YEAR”は、ポートランドで撮影を敢行。実際の犯罪番組からコラージュされたボイスオーヴァーを使用したり、2004年に制作した“Travis”では、息子をイラク戦争で亡くした母親のNPRのラジオインタビューの素材を使用した。2006年に『オールド・ジョイ』を監督。翌年、サンダンス映画祭でプレミア上映され、ロッテルダム国際映画祭のタイガー・コンペティション部門で受賞した初めてのアメリカ映画となった。『オールド・ジョイ』以降、『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』(2016)以外の全ての作品をオレゴン州で撮影している。

ポン・ジュノが「映画史に名を刻むべき最も美しいオープニングシーンのひとつ」と評した長編三作目となる『ウェンディ&ルーシー』(2008)は、ミシェル・ウィリアムズがオンライン映画批評家協会賞などいくつかの映画祭で主演女優賞を受賞した他、自身も数多くの賞にノミネート。また『オールド・ジョイ』に引き続き出演した、ライカートの愛犬ルーシーはカンヌ国際映画祭でパルム・ドッグを受賞。次作の『ミークス・カットオフ』(2010)ではフランスのカイエ・デュ・シネマで年間ベスト10に選出。ジェシー・アイゼンバーグ、ダコタ・ファニングをキャスティングした『ナイト・スリーパーズ ダム爆破計画』(2013)は、前作に続き、ヴェネチア国際映画祭のコンペティション部門に選出される。
『ライフ・ゴーズ・オン』に出演したクリステン・スチュワートは、「普通の監督が映そうとする、ある出来事に対して、彼女はその出来事が起こるまでの瞬間を描き出す監督です。(人々を意図的に楽しませようとか、何かをでっちあげようとかせず、)我々には予測が出来ない、コントロール出来ない何かを、彼女は映し出そうします。私はそんな彼女の映画が大好きです」と評している。

2019年にリリースされた“First cow”はインディペンデント映画でありながら、ニューヨーク映画批評家協会賞を受賞した他、数々の映画賞にノミネート。「オスカー候補」と名高かったが、ノミネートには至らず。その結果に疑問を呈する多くの批評家たちがいた。本作はライカートの“メンター”であった映画監督のピーター・ハットンに捧げている。

彼女は現在、コロンビア大学、ニューヨーク大学等で教鞭を執り、現在はバード大学でアーティスト・イン・レジデンスとして在籍中。 最新作の“Showing Up”は、ミシェル・ウィリアムズを主演に迎え、前作に続きA24が製作を務める。

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