自らプロデューサーや撮影を務め、過激なまでに独自の美学を貫き通し、ガス・ヴァン・サントをはじめ多くの映画人から愛されるアメリカの孤高の映画監督、ニナ・メンケス。手掛けた作品は数々の国際映画祭に招聘され、シャンタル・アケルマンやケリー・ライカートらを引き合いに称賛されてきたものの、我が国では長い間劇場公開されることはなかった。近年、初期作品がアカデミー・フィルム・アーカイヴとマーティン・スコセッシ設立の映画財団(The Film Foundation)によって修復されるなどさらに評価の気運が高まり、このたびついに代表作3本が初の日本公開決定。
1963年(55年、65年の説もある)、ナチスの迫害から逃れたユダヤ人の両親の元、ミシガン州アナーバーで生まれる。カリフォルニア州バークレーで育ち、UCLA在学中の1981年に初の短編“A Soft Warrior”を手掛ける。主演は妹のティンカ・メンケスで、以降も多くの作品で協働する。83年にイスラエルと北アフリカで撮影した中編“The Great Sadness of Zohara”を発表、アリソン・アンダース監督から「この10年でベストの作品のひとつ」と評される。91年の初長編作『マグダレーナ・ヴィラガ』はサンダンス映画祭に出品、ロサンゼルス映画批評家協会賞で最優秀インディペンデント/実験映画賞を獲得するなど高い評価を得た。その後もLAを拠点に、ユダヤ系としてのアイデンティティを色濃く反映させながら、女性たちが対峙する内面世界や孤独、暴力、セックスといったテーマを見事に昇華させ、寡作ながら商業主義とは一線を画した妥協のない映画作りを続けている。