[INTRODUCTION]
独裁政権や内戦が続いた影響で経済が停滞し、世界でも最貧国の一つとされる中米ニカラグア。国内で製作された長編映画は数本のみで、本作『マリア 怒りの娘』は、ニカラグア出身の女性監督による初めての長編映画である。本作のローラ・バウマイスター監督は、1983年ニカラグアに生まれ、メキシコの国立映画学校で学んだ。2014年に制作した短編『Isabel Im Winter』が、その年のカンヌ国際映画祭批評家週間に選出された実績を持つ。初の長編となる本作では、ニカラグア最大級のゴミ捨て場ラ・チュレカを舞台に、母の不在に直面しその葛藤を乗り越えていく少女マリアの姿を、内なる世界を幻想的に交えながら描く。主人公マリアを演じたのは、演技未経験だったアラ・アレハンドラ・メダル。パンデミックによる撮影延期により元々予定していた俳優がマリア役に合わなくなり、エキストラのオーディションに参加していたアラに白羽の矢が立った。主人公と似た境遇で生まれ育ったというアラが、母を思い、言葉にならない怒りを募らせるマリアを圧倒的な存在感で演じている。