[INTRODUCTION]
『Summer of 85』『すべてうまくいきますように』など話題の第72回ベルリン国際映画祭のオープニングを華々しく飾った本作は、オゾン監督が『焼け石に水』以来20年ぶりに、鬼才ファスビンダーの名作『ペトラ・フォン・カントの苦い涙』(1972)の再創造に挑んだ。現代的な視点とオゾン特有の美意識に基づくアレンジが施され、風刺やユーモアをふんだんに織り交ぜた語り口は驚くほど軽やか。刺激的なヴィジュアルと音楽など、見どころの尽きない濃密でエモーショナルなメロドラマが完成した。アート映画の愛好家で、ファスビンダー好きで知られる鬼才、ジョン・ウォーターズ監督は、毎年発表している私的な映画ベストテンの2022年版にて、本作を「圧倒的なベストワン」に選出している。
物語の舞台をアパルトマンの一室に限定した本作は、すでに映画監督として成功しながらも、プライベートでは孤独と不安に苛まれている主人公ピーターの姿を通して、愛というものの本質をあぶり出していく。