膨大な時間と情熱をかけた、アナログで素朴な味わいとティム・バートンを思わせる個性溢れるキャラクターに加え、本作の最大の魅力はそのドラマの素晴らしさだ。9歳の少年“ズッキーニ”が思わぬ事故で母親を亡くしてしまうエピソードから始まる物語は、舞台が孤児院に移ると、子供たちの明るい歓声と光に彩られはじめる。複雑な事情を抱える子供たちは、様々な大人に囲まれながら、明日への希望を見出していく。小さな初恋、スリリングな救出作戦、男の子同士の友情など、ユーモアにあふれ、切なく、そして心温まる珠玉の物語。ラストシーンに流れるのは、スイスの歌姫ソフィー・ハンガーが歌う「Le vent nous portera」。“風が僕たちを運ぶよ”とささやく哀愁のある歌声が感動の余韻を深く心に焼き付ける。
監督、脚本を務めたクロード・バラスは、本作品が長編デビューの今最も期待されるアニメーション作家。ジル・パリスによる原作に魅せられ、大人向けの原作を世界で虐待にさらされる子どもたちへの応援歌として脚色。子どもたちの豊かな想像力を信じる思いに貫かれた物語に、大人も子どもも夢中になり、心をわし掴みされずにはいられない。