特集上映「アニエス・ヴァルダの世界」

過去の上映作品
[上映日程]2/4~17(休映:2/6、13)

映画を愛し、人生を愛し、
生涯現役を貫いたフランス人監督アニエス・ヴァルダが遺した、
宝石のような映画たち。

2019年3月29日、映画史にその名を刻む女性監督アニエス・ヴァルダがパリの自宅で息を引き取った。享年90歳と10ヶ月。前月にベルリン国際映画祭で最新作『アニエスによるヴァルダ』がプレミア上映され、舞台挨拶に登壇。元気な姿を見せた直後の訃報に、地元フランスの映画人はもちろん、世界中のシネフィルたちが驚き、その死を悼んだ。
本特集上映では、監督のみならず、写真家、ビジュアル・アーティストとして活躍した彼女の、60年以上に及ぶ創作の歴史を、代表作『冬の旅』を中心に7本の作品とともに辿ります。そのチャーミングな人柄に魅了され、彼女が歩んできた足跡に感嘆することでしょう。

[上映作品]
『ラ・ポワント・クールト』La pointe courte (1954)
『5時から7時までのクレオ』Cleo de 5 a 7 (1961)
『幸福~しあわせ~』Le Bonheur (1964)
『ダゲール街の人々』Daguerréotypes (1975)
『冬の旅』SANS TOIT NI LOI (1985)
『落穂拾い』LES GLANEURS ET LA GLANEUSE (2000)
『アニエスによるヴァルダ』Varda par Agnès (2019)

主催:上田映劇
配給:ザジフィルムズ

[上映スケジュール]

『ラ・ポワント・クールト』La pointe courte
[1954年/フランス/フランス語/モノクロ/モノラル/スタンダード/80分] 
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
編集:アラン・レネ
出演:フィリップ・ノワレ、シルヴィア・モンフォール
字幕翻訳:井村千瑞
(c) 1994 AGNES VARDA ET ENFANTS

ゴダールの『勝手にしやがれ』よりも5年、トリュフォーの『大人は判ってくれない』よりも4年も早く製作された、「ヌーヴェルヴァーグはここから始まった」と言っても過言ではない伝説的作品。南仏の小さな海辺の村を舞台に、生まれ故郷に戻ってきた夫と、彼を追ってパリからやってきた妻。終止符を打とうとしている一組の夫婦の姿を描く。

『5時から7時までのクレオ』Cleo de 5 a 7
[1961年/フランス=イタリア/モノクロ/スタンダード/90分]
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
撮影:ジャン・ラビエ
音楽:ミシェル・ルグラン
作詞(シャンソン):アニエス・ヴァルダ
編集:ジャニーヌ・ヴェルノー
美術:ベルナール・エヴァン
製作:ジョルジュ・ド・ボールガール
出演:コリーヌ・マルシャン、アントワーヌ・ブルセイエ、ミシェル・ルグラン、ホセ・ルイス・デ・ビラロンガ、ロワ・パヤン、ジャン=クロード・ブリアリ、アンナ・カリーナ、ジャン=リュック・ゴダール、アラン・スコット、ジョルジュ・ド・ボールガール、サミ・フレイ、エディ・コンスタンティーヌ
(c) agnes varda et enfants 1994

もしかして私、ガン?今は5時。医者を会うまでの2時間どうしよう…。占い師も恋人も作曲も、みんな無神経で誰も私のことをわかってくれない…。診断結果が分かる7時までの間、不安と希望を行き来しながら、夏至のパリを彷徨うポップ・シンガー、クレオの心象風景を、リアルタイムで追いかけた、キュートで哲学的なガーリームービーの金字塔。M・ルグラン、ゴダール&アンナ・カリーナ夫妻がカメオ出演。

『幸福~しあわせ~』Le Bonheur
[1964年/フランス/カラー/ビスタ/80分]
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
撮影:ジャン・ラビエ、クロード・ボーソレイユ
音楽:ヴォルフガング・A・モーツァルト
美術:ユベール・モンルー
編集:ジャニーヌ・ヴェルノー
製作:マグ・ボタール
出演:ジャン=クロード・ドルオー、クレール・ドルオー、サンドリーヌ・ドルオー、オリヴィエ・ドルオー、マリー=フランス・ボワイエ
(c) agnes varda et enfants 1994

「男ってなんてバカなの」「女は、何考えているのかさっぱりわからない」そんな類のテーゼを根本から吹き飛ばす衝撃的な人間ドラマ。圧倒的なストーリーテリングと緩急自在の語り口で、一組の夫婦の皮肉な物語を無邪気にみつめる。人は誰しも幸福を求める生き物、でも、しあわせって一体なに?珠玉の短編小説のような深い味わいを残すヴァルダの代表作。ベルリン映画祭銀獅子賞受賞。

『ダゲール街の人々』Daguerréotypes
[1975年/フランス/フランス語/カラー/モノラル/スタンダード/79分]
監督:アニエス・ヴァルダ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー、ヌーリス・アヴィヴ
字幕翻訳:横井和子
(c) 1994 agnès varda et enfants

自身が50年以上居を構えていたパリ14区、モンパルナスの一角にあるダゲール通り。“銀板写真”を発明した19世紀の発明家の名を冠した通りには肉屋、香水屋…、様々な商店が立ち並ぶ。その下町の風景をこよなく愛したヴァルダが75年に完成させたドキュメンタリー作家としての代表作。人間に対する温かな眼差しと冷徹な観察眼を併せ持ったヴァルダの真骨頂。

『冬の旅』SANS TOIT NI LOI
[1985年/フランス/ヨーロッパ・ビスタ/105分]
監督・脚本・共同編集:アニエス・ヴァルダ
撮影:パトリック・ブロシェ
音楽:ジョアンナ・ブルゾヴィッチ
出演:サンドリーヌ・ボネール、マーシャ・メリル、ステファン・フレイス、ヨランド・モロー
© 1985 Ciné-Tamaris / films A2

フィクション、ノンフィクションを自由に行き来して、傑作を数多く遺したヴァルダの、劇映画の最高傑作。1985年ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞。フランス本国では作品の評価はもちろん、興行面でもヴァルダ最大のヒット作と言われている。
冬の寒い日、フランス片田舎の畑の側溝で、凍死体が発見される。遺体は、モナという18歳の若い女だった。モナは、寝袋とリュックだけを背負いヒッチハイクで流浪する日々を送っていて、道中では、同じく放浪中の青年やお屋敷の女中、牧場を営む元学生運動のリーダー、そしてプラタナスの樹を研究する教授などに出会っていた。警察は、モナのことを誤って転落した自然死として身元不明のまま葬ってしまうが、カメラは、モナが死に至るまでの数週間の足取りを、この彼女が路上で出会った人々の語りから辿っていく。人々はモナの死を知らぬまま、思い思いに彼女について語りだす。

『落穂拾い』LES GLANEURS ET LA GLANEUSE
[2000年/フランス/フランス語/カラー/ビスタ/82分]
監督・脚本・語り:アニエス・ヴァルダ
撮影:ディディエ・ルジェ、ステファーヌ・クロズ
編集:アニエス・ヴァルダ、ロラン・ピノ
字幕翻訳:寺尾次郎
© Cine Tamaris 2000

ある日、ヴァルダ監督はパリの市場で、道路に落ちているものを拾う人たちを見ていて映画の着想を得た。その後、いろいろな市場で人々の拾い集める動作を観察しているうちにミレーの名画『落穂拾い』を連想し、田舎ではまだ落穂拾いをしているのだろうかという疑問にかられた。こうして、ハンディカメラを手に、フランス各地の“現代の落穂拾い”を探す、彼女の旅は始まる。ヨーロッパ映画賞 最優秀ドキュメンタリー賞/フランス映画批評家協会賞 最優秀映画批評家賞受賞。

『アニエスによるヴァルダ』Varda par Agnès
[2019年/フランス/フランス語/カラー/5.1ch/1:1.85/119分]
監督:アニエス・ヴァルダ
製作:ロザリー・ヴァルダ
アソシエイト・プロデューサー:ダニー・ブーン
字幕翻訳:井村千瑞
(c) 2019 Cine Tamaris – Arte France – HBB26 – Scarlett Production – MK2 films

ヴァルダが60余年の自身のキャリアを振り返る、集大成的作品(本特集の上映作品はすべて登場します)。飽くことのない好奇心と情熱をもって、死の直前まで創作活動を止めることのなかった彼女の、これは遺言状ではなく未来へのメッセージ。<第69回ベルリン国際映画祭 正式出品作品>

アニエス・ヴァルダ AGNÈS VARDA

1928年5月30日、ベルギー・ブリュッセルでギリシャ人の父とフランス人の母のもとに生まれる。第二次世界大戦中の1940年、戦火を逃れ南フランスのセートへ。
その後パリへ出て、ソルボンヌ大学などで学び、50年代より職業写真家として活動を開始。この頃、ジェラール・フィリップの舞台の専属カメラマンを務めたこともある。
1954年、フィリップ・ノワレを主演に迎えた『ラ・ポワント・クールト』で長編デビュー。アラン・レネらとともにヌーヴェル・ヴァーグ「左岸派」の代表的な映画作家と称されるようになる。1961年『5時から7時までのクレオ』を発表し、世界中で絶賛された。翌年、ジャック・ドゥミと結婚。1964年『幸福』でベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞。以後、独創的なドキュメンタリー作家として数々の作品を手掛ける一方、1977年には劇映画『歌う女・歌わない女』を発表するなど、ジャンルをまたぎ幅広く活動を続けた。1985年、『冬の旅』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞など数々受賞。この作品に感動したジェーン・バーキンの依頼で、1987年に彼女と共に『アニエスv.によるジェーンb.』、『カンフー・マスター!』と続けて撮影。
1990年、夫ドゥミが死去。翌年『ジャック・ドゥミの少年期』を発表した。さらに『ロシュフォールの恋人たち』の25年後を描いたドキュメンタリーや『ジャック・ドゥミの世界』(1993年)、さらに『天使の入江』のリマスターや2012年には自身とラウル・クタ―ル監修のもと大がかりな『ローラ』の2K修復を手掛けるなど、ドゥミの死後も彼の業績を世に広める活動を積極的に行っている。
2000年、には『落穂拾い』でヨーロッパ映画賞と全米批評家協会賞を受賞。2008年には『アニエスの浜辺』を発表している。2015年、長年の功績が評価され、オリヴェイラ、イーストウッドらに続き史上6人目となるカンヌ国際映画祭名誉パルムドールを受賞。2017年にフランス人アーティストJRと共同監督したドキュメンタリー『顔たち、ところどころ』では、カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)、トロント国際映画祭 観客賞などを受賞。2019年3月29日、パリの自宅兼事務所で息を引き取る。享年90歳と10ヶ月。

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